仙台赤門短期大学 看護学科

宮城県仙台市の看護師養成学校|仙台赤門短期大学 看護学科

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教職員コラムリレー
Akamon Column Relay

第24回「私 ほんとうは…」 の後に続く言葉

平尾 由美子

『くじけないで』表紙

 

90歳を超えてから詩を書き始め、98歳で詩集『くじけないで』を出版した柴田トヨさん。

1911年~2013年の103年の人生には、戦争や貧困があり、

その中を生き抜いてきた一人の女性の言葉には、いいようのない重みや深さがあります。

詩集のタイトルのように、若い世代への励ましや、今の生活の中での幸せが綴られた詩が多い中、

この詩を読んだ時は胸を衝かれた思いでした。

 

こおろぎ

深夜  コタツに入って

詩を 書き始めた  

私  ほんとうは

と  一行 書いて

涙があふれた

(後略)

 

柴田トヨ. くじけないで (Kindle の位置No.278-279). 飛鳥新社. Kindle 版より

トヨさんの直筆ノート 『くじけないで』電子版より

 

「私 ほんとうは 」の後は、詩に書かれていません。

トヨさんは、どんな言葉を書きかけたのでしょうか。

90代後半でひとり暮らしでも、家族や周囲の人々に恵まれ

達者に詩を書いて、穏やかに生きているトヨさんは

間違いなく、周りから慕われ、敬われ

「トヨさんのようになりたい」と言われる立場にあったことでしょう。

 

だから

決して無理をしているわけではないけれど

元気にしている

幸せにしている

そんな自分像を生きている部分が、少しあったのかも知れないと想像しました。

 

人は一人である という事実

命には終わりがある という事実は

 

幸せでありながら

暗い闇の淵を意識せざるを得ない

魂の苦痛を感じてしまう。

私の勝手な想像ですが

 

深いところにある、なにかネガティブな言葉を

ストレートに詩に表現することを

トヨさんはしませんでした。

 

ぎりぎり

踏みとどまったのでしょうか。

 

夜、書いた手紙を翌朝読み返して

出さずにそっと仕舞うような

そんな心境だったのかも知れません。

 

それはやはり

トヨさんの強さであり、何より

大きな大きな優しさなのでしょう。

 

自分も、人生の残り時間を意識する年齢になり

何のために生きるのか、という

青年期の一時期、一生懸命考えていたけれど

まだ抽象的に捉えていた命題に

改めて向きあうようになりました。

 

夜中にコオロギの声を聞いたら

もう少しだけ

トヨさんの心に近づけるのかも知れません。

次に秋が来たら

耳を傾けてみたいと思います。

詩集『くじけないで』より