第69回研究テーマとの出会いと、続けることの意味 ~希望と落胆とド根性の間~
私は、大学院時代から音楽聴取を科学的な看護技術として取り入れるべく研究を続けています。
しかし、初めからこの研究をしようと思っていたわけではなかったのです。
では、なぜこのような変わったテーマになってしまったのか…きっかけは非常に意外なものでした。
私は看護技術の実験的な検証を通して、新しい看護技術の開発がしたいという思いのもと、研究室の扉を叩きました。
大学院の、特に修士課程では自分が考えた新しいテーマで研究を始めるというよりは、
研究室で行っている研究の一部を担うという形で研究とは何かを学びその入口に立つ、と私は認識していたため、
入学後はどれに関わることになるだろうとわくわくしながら指導教授の助言を待っていました。
ところが、急転直下の展開…指導教授が「折角音楽を学んできたんだから、音楽を使って研究していきましょう」とおっしゃったのです。
私は耳を疑いました。
そのような研究が行われている様子は全くなかったのですから。
「無理です」と言いかけたのですが、それを言ってはいけない、
頑張ってみるしかないと咄嗟に考え直し「わかりました、頑張ってみます」と答え、研究が始まりました。
当然、研究計画書から分からないことだらけで研究を進めることになります。
先行研究を当たってみても、ピンとこないものばかり。
私が知りたいと思う答えに行きつくものはなく「私がやろうとしていることは、意味があるのか?」と
絶望的な気分に陥ることもしばしばでした。
それでも教授は「まだ計画まとまらないの?」
「何この文献レビューは。こういう先行研究論文しか見つからないの?」と容赦なく指導してくださいます。
…もうわかりません…私にはこのテーマは無理です…でも指導を受け…
その繰り返しで日々が過ぎて行きました。
それから半年近く経った頃、漫画『のだめカンタービレ』を読み返して、
モーツァルト「2台のピアノのためのソナタニ長調K448」(注1 に行きつきました。
そう、これは音楽療法の効果 (注2 に注目が集まったきっかけを作った曲なのです。
この曲にちなんでモーツァルト音楽による効果がMozart effect と呼ばれ、
この効果については議論されつくしたと言われる向きもありますが、
先行研究を読んでも私はまだまだ納得いかない点が多く、思い切って取り組もうと決心し、現在に至っています。
こうして希望と落胆を繰り返しながらも、間にド根性という潤滑油を入れることで何とか続けていますが、
思うような成果があげられずまた落胆する毎日です。
それでもきっと音楽が健康に役立つと自信を持って言える日が来ると希望を持ち、
近いうちに成果を世に出すんだというド根性でこれからも取り組んでいこうと思います。
いつか成果発表という形で、皆様にお話しできる機会があるといいなと願っています。
注1) モーツァルトのK448は、『のだめカンタービレ』の序盤で、主人公であるのだめと、
相手役の千秋が千秋の教官から課題として与えられた曲。
お互いの息だけでなく、曲の解釈もぴったり合わないと成立できない曲のため、
お互い全力で戦うような形で楽曲を仕上げていったというエピソードになっている。
注2) 音楽療法は、音楽を聴取したり自身で演奏したりすることによって心身の健康を高める目的で
行われるものと定義されている(アメリカ音楽療法協会)。
1993年、大学生がK448を聴いた後に知能テストを行うと、
そのスコアが何も聴かずに受験した学生や、他の朗読音源を聴いた後に受験した学生よりも
有意に点数が上昇したという報告がNature に掲載された。
このことで音楽療法の中でもモーツァルトの音楽は効果が高いと注目されるようになった。
『のだめカンタービレ』第1巻 表紙。
テレビドラマにもなったので、ご存じの方も多くいらっしゃると思います。
モーツァルトの肖像画。
音楽科で学んでいた頃よりも深いお付き合いをしています。