第56回私の祖母
最近、新聞やテレビなどで「人生100年時代」という言葉をよく見聞きするようになりました。
ある海外の研究では、2007年に日本で生まれた子供の半数が107歳より長く生きると推計されており、
日本は健康寿命が世界一の長寿社会を迎えています。
最近まで私は回復期病棟でリハビリ職として働いていましたが、十数年前と比べて最近は90歳代の患者さんの入院が多くなった印象を受けます。
皆さんの90歳代のイメージはどのようなものでしょうか?
時々TVで取り上げられるような、筋トレをしたり、スポーツをしたりするスーパーおじいちゃん・ばあちゃんは、
なかなか身近にはいませんが、私がこれまで出会った90歳代の患者さんで、とても印象的だった方が何人かいます。
患者さんですので、何らかの疾患や身体的な問題があって入院されているのですが、皆さんとても前向きで意欲的なのです。
私は主に脳卒中後の脳のリハビリ、いわゆる脳トレ等を行っていたのですが、脳にダメージを受けた患者さんにとって脳トレは結構苦痛で、
若い患者さんでも拒否してしまうこともあります。
しかし、印象的だった90歳代の患者さん達は皆さん、面白がってやって下さるのです。
最初は簡単な課題から、中には少し子供っぽい様な課題もあるのですが「この問題は、孫と一緒にやってもいいかもね」と言いながら。
問題が出来ると少年少女の様にキラキラした笑顔で喜んで下さるので、こちらまで楽しくなったりして…。
そして、驚くべきことに最初は問題が出来なくても、徐々に難しい問題も出来るようになっていくのです。
実は私の身近にも意欲的な90歳が居ます。
私の祖母は今年卒寿(90歳)を迎えました。
現在、市内で娘夫婦(私の両親)と同じ敷地で家は別という半分独居のような生活をしています。
祖母の日常はとてもシンプルなものです。
朝7時頃に起床し、隣に住む娘夫婦が作った食事を食べ、洗濯や掃除は介護サービスを利用しています。
物忘れ防止のために日記を付けたり時々面倒になって付けなかったり…、午後は家の周りを散歩し、そしてお昼寝タイム。
夜は22時位に就寝(TVを見てちょっと夜更かし)。
持病もありますし足腰も弱く、疲れ易さや、体調が優れない日が年々増えてきています。
しかし、祖母の気持の前向きさによく家族は驚かされます。
最近、祖母が家の中で転んでしまいました。
幸いにも骨折はしませんでしたが、前歯が1本折れてしまいました。
さぞ落ち込んでいるのでは…と思っていたら「前より、めんこく(可愛く)なったでしょ!」とニコニコ笑顔。
以前から歯肉が弱り前歯が1本だけ前の方に傾いていたのですが、祖母はそれが気に入らなかったらしく、その歯が折れて良かったと。
そして、私が祖母宅へ遊びに行くといつもオセロゲームをします。
最初は脳トレの為に、ドリルをあげたのですが、全く手を付けていなかったので、一緒に出来るオセロをプレゼントしてみました。
オセロは全くの未経験でしたが「やってみたい」との事で、最初は説明・アドバイスをしながら。
時々自分の駒が白か黒か分からなくなる事もありましたが、最近はアドバイスをすることは殆ど無くなり、
2人で黙々とやっています(アドバイスをすると私が負けそうになるので…)。
また、祖母は美味しいものや珍しいものも大好きです。
普段はそんなに沢山は食べられないのですが、何でも面白がって食べます。
私の両親は、料理好きなのでアジア料理やインド料理なども時折祖母に提供していますが、面白がって食べています。
たまの外食時にはしっかりお洒落をし、美味しいものをペロリと平らげ、ビールもグラス1杯飲み干します。
先日、祖母宅に行くと仏壇に何故かポテトチップスが供えられているではないですか。
どうしたのか尋ねると、ポテトチップスを一度食べてみたかったので、隣に住む娘にお願いして買ってきてもらったのだと。
「冥途の土産に」と言いながら何にでもチャレンジしています。
私が看護学生の時に、先生から「人は、最後の死ぬ瞬間まで成長し続ける」と教わったのですが、
90代の患者さんや祖母の姿を見ていると、本当にそう思います。
人間は何歳になっても成長していけるのだと。
体は思うように動かなくなってきてもそれも受け入れながら、山登りをしたり、スカイダイビングをするスーパーおばあちゃんではないけれども、
小さなチャレンジを楽しめるって良いですよね。
「おばあちゃん、今度は冥途の土産に何をしようか?」