第107回希望の光に導いた看護師-藤野高明さんと北條民雄の出会い-
1938年生まれの藤野高明さんは、不発爆弾事故で幼い頃に両眼の視力と両手を失った。不就学状態に置かれたが、唇で点字を読む触読をマスターし盲学校(現在の視覚支援学校)に20歳で進学。多くの障壁を乗り越え33歳で社会科教諭として教壇に立ち、30年余の教職生活を全うした方である。
自暴自棄だった18歳の頃の藤野さんに点字を学ぶきっかけを与えたのは、入院していた病院のK看護師(当時21歳)が読んでくれた北條民雄の『いのちの初夜』であった。自身がハンセン病である北條の著書から、藤野さんは世の中にある不幸に思い及ぶと共に“なりふり構わず”舌先で舐めるようにして本を読むハンセン病の方々から生きるエネルギーを感じ、点字を学ぶことを決意したという。正に、この本を選び読んでくれたK看護師が藤野さんの人生を光に導いたといえる。
改めて看護師として人に関わることの責任と可能性を感じるエピソードである。K看護師がこの本を選んだ理由はわからないが、結果的に藤野さんに与えた影響はとてつもなく大きい。こんな存在になるためには、どうしたら良いのか、何を身につければ良いのか。突きつめれば、教養や人間性を磨くということに尽きるのであろう。
もし私がK看護師の立場であったら、藤野さんに何の本を選んだだろうか。少なくとも、もっと明るい内容の本にするだろう。当たり障りのないものを選びそうであり、ちょっと情けない気分になる。
参考
1)NHK福祉情報サイトハートネットTV https://www.nhk.or.jp/heart-net/article/494/
2)第37回NHK障害福祉賞 最優秀 人と時代に恵まれて 藤野 高明
https://www.npwo.or.jp/wp-content/uploads/2021/01/37fujinot.html