第54回その人にとっての支えとなる関係をつなぐ「写真」
がん終末期の患者さんが過ごされる緩和ケア・ホスピス病棟に勤務していた頃、
私は「写真」のもつ力の大きさに触れました
写真を見つめる患者さんやご家族、ご遺族の一場面である
写真を大切そうに、じっと眺める様子
写真をみつめながら故人に語り掛け、目を瞑る様子――
写真の中には何気ない、当たり前の日常、普段通りの患者さん、ご家族の姿がありました
写真をみつめる患者さんやご家族、ご遺族の様子から、
写真が、いかに大切な人を失いゆく、失った方々のこころの助けになっているのか、思いを馳せました
大切な方との思い出を蘇らせる何気ない一枚の写真、この写真の存在が
生老病死にかかわりなく、人と人との関係性をつなぐことができるのではないかと考えました
人が人を支えること、人に支えられること
家族がお互いに支え合う関係とは、目に見えるものだけではないと痛感しました
私は、病棟でのイベントやご家族の面会時に、病室に飾ったり、ご家族にお渡しするための写真を撮影しました
カメラレンズの向こう側にある
愛犬に頬をなめられ、自然と笑みがこぼれる患者さんの姿(こちらまでにこり)
カメラを向けると、自前のカメラを向けて看護師を撮影し始める患者さんの姿(少々、戸惑った)
誕生日を祝われ、お酒や好物とともに微笑んでいる患者さんの姿(うれしいときの表情は逃さぬように)
ふと気づいた、カメラのシャッターボタンを押す際に、自分の指が震えている――
シャッターボタンを押す指には、
がん終末期の患者さんとご家族にとってともに過ごす時間が限られているからこそ、
言葉にならない思いが込められていたのではないか、と思い返されます
またとないその瞬間瞬間をとらえ、形として残すことは、グリーフケアのひとつです
支援者も「こんな時、あったよね」と語り合い、患者さんとご家族の物語に癒されます
人生、それぞれには物語があり、「病気」は一側面でしかないのです
写真は色褪せても思い出の中で支えとなる人は存在し続けます
これからも写真を通して、支えとなる人の存在や、そこにはどのような物語があるのか、
関心を向けていきたいと考えています
在りし日の家族の風景