仙台赤門短期大学 看護学科

宮城県仙台市の看護師養成学校|仙台赤門短期大学 看護学科

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教職員コラムリレー
Akamon Column Relay

第45回みんな違って、みんないい!-忘れられぬ出会いから-

学科長 佐藤 喜根子

今から35年も前の話です。

私が産科外来で仕事をしていた時の忘れられない親子のお話です。

“あっ!赤ちゃんからお手紙だ!お手紙がきたよ!お手紙だよ!”

産科外来で、胎児の健康度を知るために実施していた胎児心拍数モニタリングから出る記録用紙を見た4歳の女の子が発した言葉です。

私が思わず“赤ちゃん何て言ってるの?”と問うと、“早くお姉ちゃんと遊びたい!と言ってるよ”とのこと。

“そう!早く会いたいんだ!”と私。

女の子は“ううん、早く遊びたいって!遊ぶんだよ。”と遊びにこだわっています。

お母さんは笑顔でこの会話を聞いていました。

 

実はこのお母さんとの出会いは、妊娠初期に出生前診断で羊水穿刺を受けに来てお会いした方でした。

最近は母体血液から胎児の染色体異常を推定する方法(NIPT)がありますが、当時は胎児から直接採血する方法と羊水穿刺をし、

羊水から培養した胎児由来の細胞で、染色体検査をしていました。

前者は胎児への侵襲が大きく消極的でしたが、後者は、外来で羊水穿刺後3~4時間は安静にして

異常がないことを確認してから帰宅するというものでした。

この安静時間にこのお母さんと交わした会話が、私にとって生命倫理観について思考の多様性の重要性を改めて教えられる場となったものです。

その内容とは… 

実は出生前診断を受ける方の多くは、“染色体異常などの先天性疾患の可能性があり、

それが陽性だと事前に分かれば、人工妊娠中絶を選択したい”という気持ちで検査をされることがほとんどです。

私自身もそれに対して格別に異議を唱える意見を持ち合わせていませんでした。

しかし、この妊婦さんの検査動機は全く予想外の内容でした。

「上の子がダウン症なんです。上の子の時は羊水検査をしなくて生まれました。

最初はショックで、不安で、心配で…ほぼ泣いて過ごしていました。

そのうちに夫がダウン症の家族会を探して来て、一緒に参加しました。

そうしたら、様々な年代の子どもたちの姿が見れて、自分の子どもの将来が予測できるように感じたんです。

同じ年のお子さんの親御さんと話し、様々な工夫や楽しみを教えてもらい、これまで知らなかった世界が広がり続けているんです。

だから、今回の検査で染色体異常が出ても、今から楽しい予定を立てようと思い検査しに来ました。

実は上の子と同じだといいなと思っているのです。」

なんと…知らない世界がもっと広がる、子どもが広げてくれるというのです。

(でも確か…この時の検査結果は正常だったと記憶しています。)

この4歳の女の子のお母さんは、きっと下のお子さんが生まれてきたら、

「あなたはお姉ちゃんよ。一緒に遊んであげようね。」とでも話されておられたのでしょう。

胎児モニタリングの記録用紙を見て、「お手紙だ!」という発想の豊かさを持つ4歳の女の子と、

これまで知らなかった世界を広げてくれていると感じる母親から、

まさに思考の多様性の重要性を教わり、現在の看護職としての私の基礎をつくっていただいたと思っています。

あの発想豊かな女の子は、今どうしておられるでしょうか?

忘れられない思い出です。