仙台赤門短期大学 看護学科

宮城県仙台市の看護師養成学校|仙台赤門短期大学 看護学科

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第138回看護の基本ってすごい!

佐藤 文枝

 看護学生になると、看護の理論についても学びます。その中で、著名な看護理論家の一人にヴァージニア・ヘンダーソンという人物がいます。彼女は、その代表的な著書『看護の基本となるもの』(1960年)で「患者の口腔内の状態は看護ケアの質を最もよく表すもの」と述べており、この言葉は看護の本質を端的に表しています。
 私が看護師として働いていた時に出会ったAさんという患者さんは、まさにこの言葉の意味を実感させてくれる方でした。Aさんは80代で、アルツハイマー型認知症と誤嚥性肺炎を患っており、暴言や暴力行為が見られるため、施設での対応が困難になり、精神科病院に入院されました。入院後、Aさんは日常生活全般にわたって介助が必要な状態でしたが、ケアに対して強い抵抗があり、暴言や暴力行為が続いていました。特に、口腔内の状態は悪化しており、歯茎は腫れ、出血や膿が目立ち、口臭も非常に強いものでした。
 口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防に極めて重要な役割を果たすため、私たちはAさんに無理強いせず、丁寧に説明して同意を得ながらケアを進める方針を取りました。ケア用品やブラッシング方法を統一し、約3か月間継続してケアを行った結果、Aさんの口腔内の状態は劇的に改善し、誤嚥性肺炎も治癒しました。さらに、全身状態も向上し、認知症の症状も落ち着き、暴言や暴力行為もほとんど見られなくなりました。
 口腔ケアは一見、日常的なケアに過ぎないかもしれませんが、そのケア一つで患者さんの状態が大きく変わることがあります。看護の基本に立ち返り、一つひとつのケアを丁寧に行うことが、患者さんの健康と生活の質を根本から改善する力を持っているのです。

これから看護の道を歩む皆さんへ
 日々のケアの中には、当たり前のように感じることがたくさんありますが、その一つ一つが患者さんの人生・生活に大きな影響を与えることがあります。皆さんの手が、患者さんの笑顔を取り戻し、健康を支える大きな力となるのです。