仙台赤門短期大学 看護学科

宮城県仙台市の看護師養成学校|仙台赤門短期大学 看護学科

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第111回マニュアルが通用しないこころのケア

佐藤 浩一郎

 私の場合、これまでのすべての臨床経験を含めると26年位になるかと思います。以下は、その都度感じてきた私個人の感想です。私が携わってきた領域は、精神看護・精神科看護・メンタルヘルス・こころの耳等、他もたくさんあるので「こころのケア」とひとくくりに表現しますが、こころのケアに対するマニュアルとはなんだろうと悩むことは多かったです。もちろん、基本的な治療の流れや原理・原則論はわかりますが、実際の臨床現場ではマニュアルが必ずしも万能ではなく、個人差が大きくて例外的な事例は少なくありません。歴史をふり返っても、東日本大震災ではマニュアルは通用しませんでした。

 今後想定外の災害が起きた時や臨床の場で、私に限らず学生の皆さんも想定外のこころのケアが必要な事例との出会いがたくさんあると思います。そこで自分なりに大切にしていることは、医療・看護はもとより、他領域・他分野の知識を柔軟に積み重ねた“人間性”を養うことだと思っています。

 具体的な事例を切り取ってみると、こころを病んでいた患者さんが、『ある大物芸能人が俺を探しているから、その大物芸能人に会わせてほしい』と毎日のように訴えていました。医者も看護師も他のスタッフもだれも、患者さんの妄想であると片づけて、訴えを信じませんでした。ところが、ただひとりだけ真摯に対応した看護師がいたのです。その看護師さんはどうしたかですが、実際にその大物芸能人に(芸能事務所に行った)会わせ、実際にふたりは知り合いだったという信じられない結果もありました。命の恩人であったと、“おい、お前生きていたのか”と、お互いに泣いて抱きあい再会をよろこんだそうです(詳しくすべて書くと一冊の本になりそうです)。

 もっというと、【捨ててこそ浮かぶ瀬もあり……】誰が言ったかわかりませんが、この格言の見方は実に深慮であります。少し仰々しいかもわかりませんが、これまでの人生をふり返ると、しっくりときます。長い臨床での出来事では、失敗やできなかったことが多かったです。ただ、捨ててこそ浮かぶ瀬もあり……マニュアルにはないこころのケアを実践しようとしてきたことは、今教育現場にいる自分への助けにもなっています。