第109回「S先生から学んだこと」
森岡 薫
私は、20数年前にⅠ大学の大学院修士課程に入学した。専攻は生命科学で、S先生に師事した。S先生は物理学で大学を卒業されたが、人間を対象とした研究でも植物を対象とした研究でも、なんでも指導できるオールマイティーな先生である。
そんなS先生の研究室(実験室)は、色々なものであふれているワンダーランドだ。決して広くはない研究室の一角に、S先生と学生で作ったという明暗室があり、24時間明るい環境(又は暗い環境)をつくることができる。そして明暗室の中には、大きめの水槽に金魚が泳いでいる。また、研究室のフロア中に様々な植物や、その植物からのデータを集めるために、粗大ごみを修理して作ったというパソコン類が置かれている。
とかく私たちは場所がないからできない、物がないから無理と考えがちだが、S先生の研究室を見ると必要なら自分で工夫すればよいのだと思わせられた。
先生は私達学生と様々なことについて話をした。しかし私の研究に関してS先生から口を開くことは少なく、初めにもらった研究のヒント以外はほとんど私から質問した。その代わり、質問をするととても丁寧に多くのことを教えてくれ、研究の本質について考えることができた。またS先生は神出鬼没でなかなかアポが取れず、質問したいときは研究室で待機をしていたが、指導が始まると私が納得するまで何時間でも教えてくれた。
S先生からの指導を経て、大学とは待っているだけで得るものは少なく、必要な時は自ら主体的に動かなければならないところ。そして求めればとても多くのことが得られるところだと学んだ。
今振り返ると、大学で学んだ創造力や主体性の重要さは、その後の私の生き方にも多くの影響を与えてくれたと感じている。S先生や大学の研究室との出会いに心から感謝している。