第48回保護猫を迎えて思うこと
今年の春、我が家に元野良猫の2匹(黒猫とキジ白猫)がやってきた。
隣人が引っ越し空き家になってから我が家の庭は野良猫たちの通り道になっていた。
この2匹は2月頃からほぼ毎晩庭に現れるようになったものだが、餌をあげてもいつも周囲を気にして、
きょろきょろと見回し、びくびくおびえるようにしながら食べていた。
他の猫が通ると猛ダッシュで逃げ出し隠れてしまうが、いなくなると警戒しながら餌のそばに来ることを繰り返していたため、
気の毒に思い保護したものである。
捕獲してすぐ動物病院に連れていき獣医の診察を受けたところ、どちらもメスで黒猫の方は生後4か月前後、
キジ白猫の方は年齢不詳とのことだった(成猫になると年齢を判定するのが難しいらしい)。
初診で、妊娠の有無の診断と、ノミ・ダニ・寄生虫の駆除の薬をいただき帰宅した。
保護した日、黒猫は鳴きもあばれもせずに捕獲機からすんなりとケージに入り、心配したトイレも1回で覚えた。
しかしキジ白猫はケージに入れようとした際に脱走してしまい、ニャーニャーと鳴きながら部屋じゅうを駆け回り、
家具に飛び乗ったり壁を引っ掻いたり、最後はエアコンの上にジャンプしたところで御用となった。
彼女が駆け回った後を見ると、壁のクロスは傷だらけ、そして床には
興奮して脱糞したらしくコロコロと茶色い丸いもの(糞)が落ちていた。
脚立に上ってエアコンの上から猫を確保した主人の腕は、引っかき傷だらけで血がにじんでいた。
こんな状況から、私たちと2匹の猫の生活がスタートした。
あれから3か月あまり、初日に大立ち回りを演じたキジ白猫はすっかりおとなしくなり、なついて甘えるようになった。
朝5時になるとフニャーフニャーと甘えた声で、すりすりと顔を寄せて私たちの顔や手をペロペロと舐めては
「ご飯ちょうだい。遊んでちょうだい」と起こしに来る。
キジ白猫は、体格はやや太めで全体的に丸い感じだが、性格もまろやかであるようだ。
保護当日の脱糞は捕獲機に捕まったことによるパニックだったようで、その後トイレの粗相をしたことは一度もない。
一方の黒猫はこの3か月の間に子猫からあっという間に成長し、艶やかな毛、スリムなスタイルで動きもしなやか、
そしてちょっと甘えたハスキーな声で鳴き、レディーな猫へ変身を遂げた。
しかし見た目とは裏腹に、成長と共に気性の激しさを見せ始め、私たちに対し噛みつく・引っ掻くはもちろんのこと、
気に入らないことがあるとウウ~ッという唸り声と共に鋭い歯を見せて威嚇するようになった。
そのため黒猫の世話をするときには、噛みつかれた際のけが防止の皮手袋が手放せない。
猫同士でも妹分でありながら、あきらかに体格の違うキジ白猫(こちらが1,5キロ体重が多い)に対してもシャーシャーと威嚇し、
猫パンチをお見舞してマウントを取りたがる。
キャットタワーの最上部に他の猫がいようとお構いなしに登っていき、唸り声と威嚇で追い出し、
ハンモックにも強引に入っていって相手を押し出してしまう。
これではレディーな見た目が台無しである。
キジ白猫は我が家に来た時のお転婆ぶりは鳴りを潜め、
威嚇されても「マウント取りたいならお好きにどうぞ」と争わず譲ってしまうことが多い。
それでも時折どうしても許せないことがあるらしく、2匹で激しい猫パンチの応酬をすることがあるため、
とても同じ部屋に置いておくことができず、現在は1階と2階に別居させている。
当初、猫を飼う際に夢見ていた、陽だまりで猫が2匹仲良く寄り添って眠る姿などというのは、
遠い未来のことなのかもしれない。
家猫として同じスタートを切った2匹なのに、発達段階が違うせいなのか、元々持つ性格なのか、
こんなにも違うものだとは正直思わなかった。
短大の講義では学生に「患者の個別性を尊重しましょう」などと話しているのに、
この2匹を保護猫というひとくくりで見ていた自分に反省させられた。
そうは言いながらも飼い主にも感情はあるので、ついお世話したくなるのは当然甘えてくる猫である。
これではいけないと思いながらも、黒猫のお世話によってできる生傷の絶えない毎日で、
どうしたものかと悩む日々が続いた。
対応に困り果てて獣医に相談したところ、
「この子(黒猫)はおそらく子猫ながら野良猫として一匹で頑張って冬を越したのではないか。
だから根性はあると思うけれど、それだけに簡単に人間になつかないと考えた方が良いし、
ここまで人間を怖がるということは、何かトラウマがあるのかもしれない。
なつくには時間がかかるから、焦らないで年単位で考えていきましょう」と言われた。
そう言われてみて、この子はおそらく社会性を身につける前に母猫とはぐれてしまい、
小さいながらも野良猫として頑張って生きてきたのだろう、だから甘えることを知らず、
感情表現が下手で威嚇という表現になってしまっているように思えてきた。
また、成長の過程で、人間に不信感を抱くような何事かがあったのかもしれない。
彼女(黒猫)の激しい威嚇や行動は、孤独に生きてきたことから来るものかもしれないし、
人間不信に至る何かがあったとしたら癒してあげたいと考えるようになった。
「人間は怖いものではない」ことを教えてあげたいし、母猫と早く離れてしまった分、存分に甘えさせてあげたいと思う。
しかし、近寄るとウウ~ッ!・シャーシャー!と威嚇されたり、容赦なく猫パンチをお見舞いされたりと、
想いとは裏腹な現実に葛藤する毎日が続いている。
ただ、ここ数日はなぜかわからないが猫パンチする際に爪を出さなくなってきた。
わずかずつでも距離が近づいているのかなと思い「私も怖いけれど、彼女もきっと怖いのだ」と自分に言い聞かせ、
日々向き合っていこうと思うこの頃である。