九州長崎の名物に、卓袱(しっぽく)料理というものがあります。
卓袱料理とは、その昔、隠元(いんげん)和尚などによって我が国にもたらされた普茶(ふちゃ)料理(精進料理の一種)の配膳形式に、
日本の「和」、中国の「華」、オランダの「蘭」の料理文化が江戸時代の長崎の地で融合して誕生いたしました。
その由来から別名「和華蘭(わからん)料理」とも呼ばれています。
この卓袱料理を食べるときに今もなお行われているのが、「おひれをどうぞ」の調理人挨拶ののちに食事開始となるしきたりです。
この「おひれ(お鰭)」とは魚や餅が入ったお吸い物のことで、調理人の「あなたの為に魚を一尾使いましたよ」という心根の証に、
鯛の鰭(ひれ)を添えているのです。
朱塗りの円卓に並べられた、この「おひれ(お鰭)」をいただいたのち、
刺身など冷たい前菜にあたる「小菜」、湯引き、煮豆、長崎天ぷら、カスティラかまぼこなどの温かい「中鉢」、
豚の角煮など和の料理の盛り合わせ「大鉢」、果物などの「水菓子」、〆の甘味「梅椀」 といった、
季節の食材をふんだんに使った多彩な料理が登場いたします。
そして、それぞれの料理は大きな器に一盛りにされ、円卓を囲んだ各人が小皿に取り分けていただくというスタイルなのです。
ちなみに「卓袱料理」の「卓」はテーブル、「袱」はテーブルクロスを意味します。
この卓袱料理のなかの一品、「カスティラかまぼこ」が、
文化文政時代、江戸に伝わった際に「伊達巻」と呼ばれるようになったといわれています。
江戸時代に「伊達者(だてしゃ)」と呼ばれた、お洒落な若者たちの着物の柄に似ていたことから名付けられたのだとか。
「伊達」には「おしゃれ」や「目立つ」、「人目をひく」といった意味がありますので、
伊達巻は目にも鮮やかな黄色であり、形も華やかなことから「派手な巻き卵」という意味で伊達巻となったのでしょう。
いまでは、おせち料理のひとつとしてお馴染みの伊達巻ですが、なぜお正月に食べるようになったのでしょうか。
一つひとつのおせち料理には、それぞれ願いが込められていますが、伊達巻には「学業成就」の願いが込められています。
なぜ伊達巻が学業成就につながるのかというと、理由はその形にあります。
伊達巻は、卵や魚のすり身を混ぜて焼いたものを巻いており、その形は巻物に似ています。
巻物のようなその形が当時の書物を連想させるので、
知性の象徴として考えられ「学業が成就しますように」との願いを込めて食されるとも。
各国の食文化が融合して誕生した卓袱料理。
「和華蘭(わからん)料理」とよばれたその中には、学業成就の願いがこめられた「伊達巻(カスティラかまぼこ)」がありました。
さまざまな文化の融合と学術成就の願い。
まるで日本伝統医療看護連携学会のめざす姿のようです。
なお、「伊達の薄着」とは、粋を気取る人が着膨れで不格好になるのを嫌って、寒いのに我慢をして薄着でいることの意ですが、
夏の盛りも過ぎ去りふと気付けば露寒の季節となりました今日このごろ、
皆さま方におかれましては、どうかお体を冷やさず風邪などひかずにお過ごしくださいませ。
卓袱料理【写真提供:(一社)長崎県観光連盟】
成人看護学概論担当:立石 和子先生