仙台赤門短期大学 看護学科

宮城県仙台市の看護師養成学校|仙台赤門短期大学 看護学科

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教職員コラムリレー
Akamon Column Relay

第126回【忘れられない患者様】

坂本 智恵子

私のコラムでは臨床での忘れられないある患者様との出会いをお伝えしようと思います。

私は20数年前、新卒で東北地方のある県の職員となり沿岸部の病院に所属になりました。
内科・血液内科・呼吸器内科の混合病棟に配属になり、内科・血液内科のチームで働いていました。そこには慢性疾患の患者様が多く、糖尿病や高血圧などのコントロール目的の患者様、化学療法を目的に入院される患者様など、入退院を繰り返す患者様が多くいらっしゃいました。

私の忘れられない患者様との出会いは、私が看護師1年目のことです。血液内科に入院されている患者様でⅠさんという男性の患者様でした。Ⅰさんは血液腫瘍疾患を患っており治療のため何度も入退院を繰り返していました。
Ⅰさんはとても紳士的な方で、いつも優しく微笑み、穏やかに話される方でした。病棟のスタッフ全員に優しく接してくれました。新人の私にもいつもやさしく接してくれました。
クリーンルームで療養生活を送らざるを得ない状況になり、抗がん剤の副作用が出現しご自分の体調も芳しくない中でも、周りの方々を気遣う、そのようなⅠさんを私は尊敬していました。私もⅠさんのように人を優しく包み込むような存在でありたいと、あこがれを抱いていました。

看護師になって2年目の頃です。Ⅰさんは再び入院となりました。
しかし、今回の入院はいつものⅠさんの入院とは違いました。Ⅰさんはすぐにクリーンルームに入院となりました。そこにいたⅠさんはいつものⅠさんとは全く別人でした。やせ細りとてもつらそうで、そこにはあの優しい微笑みはありませんでした。
まさか今回の入院がⅠさんとの最後になるとは思ってもいませんでした。
どうにか治療していつものⅠさんに回復してほしいと願っていましたが、願いは叶いませんでした。
とうとうその時が訪れてしまいました。奥様と長男さんに見守られてⅠさんは帰らぬ人になってしまいました。知的障がいのある長男さんはⅠさんを見て奥様にこう伝えました。「お父さん寝ているね。いつ起きるの?」と。私はこの言葉に涙を止めることが出来ませんでした。
私はⅠさんのエンゼルケアを担当しました。Ⅰさんとの思い出や感謝の気持ちを、亡くなったⅠさんに伝えながらケアを行いました。そしてⅠさんの病室で思いっきり涙を流し、最後のお別れをしました。

看護師になり、社会人となったばかりの私は、患者様であるⅠさんから“人として”の基礎を学びました。Ⅰさんは私にとってナイチンゲールのような存在でした。
今も私は時々Ⅰさんを思い出します。今の私はⅠさんに近づくことができているだろうか?といつも自問自答しながら・・・。