仙台赤門短期大学 看護学科

宮城県仙台市の看護師養成学校|仙台赤門短期大学 看護学科

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教職員コラムリレー
Akamon Column Relay

第120回私のターニングポイント

金野 明子

 私は臨床現場にいた時、歯学部の顎口腔機能治療部という部署に数年間在籍していた。ここは口腔に関する先天性疾患の中でも主として口唇口蓋裂を扱い、宮城県内はもちろんのこと東北各地から多くの患者が通院していた。口唇口蓋裂は、原因不明で新生児の約500名に1名の割合で発症すると言われ、先天的に口蓋、口唇、上顎に裂を認める病態で、摂食や言語機能の問題も生じる。このため、口腔外科、形成外科、耳鼻科、矯正歯科、言語聴覚士、看護師などのチームで連携を取り、出生から成長期までの長期間関わっていくことになる。

 口唇口蓋裂は顔面に変形を伴うために、親たちは育児に様々な悩みを抱えながら病院にやってくる。ミルクがうまく飲めず鼻からあふれるなど哺乳の難しさから始まり、口蓋の骨が一部欠損しているのでパ音などの言語の獲得が難しい、歯の生え変わり時期は永久歯がバラバラな方向に生えてしまう、乳児期に手術で一度は唇を縫合しても顎の成長に伴い再び口や鼻に歪みが出てくるなど様々なことがあるため、成長とともに長期にわたる医療機関でのフォローが必要である。

 この治療部では毎年患児の誕生月には一通りの口腔内検査を行うことになっていた。その時にある親から「確かにうちの子は、外見でびっくりされるのだけれど、私にとってはとても可愛いわが子なの。でも、この子を出産した時は周囲の人たちは ”お母さん、お子さんは手術すれば治るから大丈夫よ” と言ってくれたけれど、そういうことよりもまず1つの生命が誕生したのだから “お誕生おめでとう”と声かけてほしかった。なのに、みんな“おめでとう”より先に “手術すれば大丈夫”とか”今は良い医者がいるから” としか言ってくれなかった。ここに通うようになって年1回の検査に来ると、医師も看護師もみんなが “お誕生日おめでとう” と言ってくれるから嬉しいし、よしまた明日から育児を頑張ろうと思えるのよ」と言われた。

 当時看護師としてやっていけるのだろうか?と悩んでいた私は、この時に「患者に寄り添う」とはこのような事から始まるのかもしれないと気づかされた。知識や技術もむろん大事であるが、私たちの何気ない声かけ一つが、患者やその家族の意欲を高めることもできるのだ・・これがきっかけで私もあらためて看護について考え、今でも看護師教育に携わることができている。この後もいろいろな臨床現場に行ったが、この顎口腔機能治療部での経験が印象深く、いわば私のターニングポイントである。あれから数十年たった今でもこの場面を鮮明に思い出すことができる。