第99回【非常勤講師特別コラム】第10回「ドイツでの『都市の健康』を維持する方法~各都市の個性(環境の健全な状態)を維持する治療(整備)を~」
■「都市」とは?
フランスの社会学者フェステル・ド・クーランジュの「古代都市」(1864年)によると、
「都市」には、二つの意味が含まれているといいます。
第一が「人々が集住していること」。
いわゆる「人々の繋がり」で、これを「City」といい、
第二は「人々の生活・活動を支える施設(機能)が存在していること」。
これを「Urban」といいます。
都市は、このように「そこで生活・活動する人々と、それらを支える施設(機能)」によってできているという定義です。
ところで、「都市の健康」を意識されている人々は、どれほどいるでしょうか?
私たち自身と私たちを取り巻く施設環境の「健康」のことですが・・・人々の多くは、「自分たちが考えることなの?」と、
思われているのではないでしょうか?
しかし、都市は、私たちの共有財産(空間)です。
それぞれの都市を、住み、活動する人々にとって適正な状態にする行為を「都市計画」と言います。
都市計画は、都市に住むすべての人々のもので、そこに住み活動する人々が所有者であり、
都市をどのようにするか意思を決定する役割を担っています。
私は60歳を越えて久しくなりました。
10代、20代の若い頃は、「人生の関心事は何か ?」との問いに「健康」と答えることはなかったと思います。
都市についても同じようなことが言えます。
戦後、高度経済成長期に建設された当時都市は、魅力的な環境を作り出していたと思いますが、
時間が経ち、昨今では社会環境の変化に対応できずに疲弊し、空洞化し、
多くの都市では魅力的で健康な状態に再整備(再開発)する動きが出ています。
では、疲弊し、空洞化した都市の再開発には、どんな整備(治療)方法があるのでしょうか?
ここで紹介したいのは、ドイツの都市計画での取り組みです。
■都市の健康を維持する=ドイツの都市再開発の方法?
ドイツでの「都市の再開発」の単語は、「都市を健康にする(健全化する)」という意味の言葉になっています。
それは、「Stadtsanierung」(シュタットサニエルン)です。
この「都市の健康を維持すること」を行うドイツでの方法は、人間の病気治療に酷似しています。
しかし、日本では「都市の再開発」と聞くと、多くの人々はその再開発する地区の既存建物を壊して
新たな建物を建設することと理解されていると思います。
ところが、ドイツでの「都市を健康にする方法」は、以下の手順で行われているのです。
Step1:都市(対象地区)の歴史・文化的価値を踏まえて、現状の良い部分を残し(保存)、
悪くなった部分を修繕(薬等で治療)します。
Step2:その修繕(治療)だけでは完治が難しい場合は、改修(外科的治療)します。
Step3:さらに悪化した部分の改善が必要な場合は、改築(手術的処置)をします。
Step4:そして、地区全体の建て替えが必要な場合は、全ての入れ替え新築(移植、手術等)をします。
■ドイツの「都市を健康にするための方法」の背景と、その維持の努力
このような方法を採用している理由は、ドイツの自然環境にも、その背景があるといえます。
日本のように、ドイツは自然環境に恵まれていません。
例えば、山岳地帯はアルプスだけで、水源の多くはアルプスに依存していますから、
水は高価でビールの方が安く、風呂・シャワーや食器洗いでの水利用は極力避けます。
また、建物の建設資材は、地域の材料が使われますが、木材などは気候条件が厳しく、
日本のように30年~50年で建築資材にはならず、100年以上が必要です。
よって、建物を改築しようとしても200~300年は現状の建物を利用しなければなりません。
とくに、建築の法律では、建物所有者の意思により改築、新築を自由にできないことになっています。
その決定は、建築の法律(建設法典による「べバングスプラン(地区建設詳細計画):B-Plan」等の作成なされていない場合は
建築不可))に従い、全ては議会(市民の代表)で審議され決定されます。
このことを「建築不自由の原則」と呼ばれますが、大切なことは「個と全体との調和」です。
個人の建物であっても、個々の建物が「都市(街並み)を構成する大切なもの」と捉えられているのです。
私たちは、写真やテレビでドイツのロマンチック街道などの街並みを見て、美しいと感じる背景には、
都市を構成する建物一つ一つが、その都市にふさわしい条件で作られ、
そして、地域の歴史・文化を表現する「都市のあるべき姿(健康)」を維持し続ける努力していることを、理解したいと思います。
ローテンブルク(ロマンチック街道で最も美しい街)
・第二次大戦で殆どの建物が破壊され、戦後に再建。
ツェレ(北ドイツの真珠/木造の街並み)
ミュンヘン(カウフィンガー通り)
・世界最大の歩行者専用道(地下に約4,000台に駐車場を整備)
ハンブルク(正面が市庁舎)