第26回その子は…、犬??
ある日の深夜、突然友人からこんな電話がかかってきました。
「うちのじいちゃんが散歩の途中で仔犬を拾ってきたのだが、どうもその仔犬の様子がおかしいから
いますぐ見に来てくれないか」と。
その友人は私の高校からの友人であり、もう30年の付き合いになります。
友人のおじいさんとも同じく30年の付き合いになり、90歳を超えても元気で
自宅で大好きなお酒を一日中ちびちび飲みながら息子夫婦とその孫たちに囲まれて生活しています。
さて、友人からの連絡に、その仔犬はどこか具合が悪そうなのかと問うと、友人は具合が悪いわけではないという。
では何なのかと問うても「いいからとにかく来てくれ」としか言わない。
しぶしぶ車で10分程度の友人宅へ赴くと、友人といつものように頬と鼻を赤くした友人のおじいさんが
「なんだ、今日はずいぶん遅くに来たんだなぁ…」と出迎えてくれました。
私が友人に犬はどこだと尋ねると、「ほら!」と灰色の塊を手に取って見せてくれました。
んっ??と思った瞬間、その灰色の塊は「カッッ!カッッ!」と私を威嚇してきました。
私にはどうしてもその犬とやらがタヌキの子どもにしか見えません。
わたしがじいちゃんこれは仔犬じゃなくてタヌキだよ!というとじいちゃんは
「オレが見つけたときはワン!て鳴いたんだ、だから犬だ」とのこと。
友人にも、あれはタヌキの子どもだと思うぞ、というと友人も「犬ではないよなぁ…」との返事。
しばらくして、その友人宅へお邪魔することがあり、車で向かっていると
そのおじいちゃんが相変わらず赤い頬と鼻をして家の周りを散歩をしていました。
その手には犬用のリードが握られており、リードの先には立派なタヌキが首輪をつけ、上着を着せられていました。
じいちゃん、やっぱりタヌキじゃん!と声をかけると、
「ポンポンは犬だ、ちゃんとお座りとお手も覚えたんだ」とのこと。
ポンポンて名前を付けたんだ、じいちゃんも意識してるのになぜタヌキと認めないのだろう…、
と思いながら友人宅で用事を済ませました。
友人宅ではタヌキのポンポンを犬として育て、ポンポンもまた自分は犬だと思い込んで大きくなり、
時間になるとドッグフードを食べ、じいちゃんの膝の上で寝て、
上着を着せられ散歩をするという日々を過ごしています。
周囲の人間がいろいろ疑問に思うことがあっても、それぞれが幸せでその人(タヌキ)らしく生活をし生きていくことが
本当の幸せなのではないでしょうか。
看護師のわたしが友人とそのおじいちゃんにできること、それはタヌキもイヌ科だから
ちゃんと予防接種はするんだぞとアドバイスすることだけだと思っている今日この頃です。